使っていない農地を放置し続けると、管理費や固定資産税がかさむだけでなく、雑草・害獣の問題も発生します。
高齢化や後継者不足から、耕作できないまま農地を手放せずに困っている方も多いでしょう。
農地を手放したい場合、適切な手続きや関連制度を理解しておく必要があります。
本記事では2025年最新情報に基づき、農地を安心して処分するための賢い方法7選を解説します。
まずは農地の現状(耕作状態や地目、保全区域かどうか)を把握し、条件に応じた最適な処分方法を検討することが重要です。次章以降で詳しく解説します。
目次
農地を手放したいならまず確認すべきポイント
農地を処分する前に、まず所有する農地の状況を詳しく確認しましょう。土地の区分(農用地区域や保全区域など)や地目、現況(耕作中か休耕かなど)によって、許可手続きの内容や適用できる制度が変わります。
これらの情報は、譲渡先や転用の可能性を検討する際にも欠かせません。農地は用途が限られた特殊な土地であるため、市区町村や農業委員会に相談して制度や要件を確認するのがお勧めです。
固定資産税や維持管理費用などの負担も把握し、処分によって得られるメリットと合わせて検討しましょう。
農地の区分を確認する
農地が「農用地区域」や「区域外農地」などどの区域に指定されているかで、転用・売却の可否が変わります。
農業振興地域の中で重要度の高い水田(いわゆる青地)は転用が難しく、逆に区域外の農地は比較的選択肢が広がる傾向があります。市区町村の窓口で区分状況を確認し、関連する制度や要件を把握しましょう。
利用状況と地目を把握する
表面上は農地と登録されていても、長年耕作されておらず雑草地化した土地は要件次第で「非農地証明」が出る場合があります。非農地証明が受けられれば、農地法の対象外となり転用や売却が比較的自由になります。ただし証明の要件は自治体ごとに異なるため、農業委員会で具体的な判断基準を確認しておきましょう。
固定資産税や維持費を把握する
農地を所有し続けると、固定資産税や農地管理にかかる費用が毎年発生します。特に休耕地の場合、草刈りや防除に手間が増えるためコストがかさみます。手放すことでこれらの負担がなくなり、資金に換えられる資産を現金化できるメリットがあります。費用面も考慮しつつ手続きの必要性を判断しましょう。
農業委員会や専門家に相談する
農地の手放し方について迷ったら、市区町村役場の農政担当や農業委員会に相談してみましょう。農地の区分確認や非農地証明の要否など、各種手続きについてアドバイスが受けられます。司法書士や土地家屋調査士といった専門家に相談すれば、複雑な許認可手続きもスムーズに進められます。
農地を売却して資金化する方法
農地を手放す最も一般的な方法は売却です。農地を農業従事者に売却できれば所有権移転が確定して速やかに資金化できます。ただし、農地のままでは買い手が見つかりにくく価格が下がりやすい面があり、転用の手間や売却条件には注意が必要です。令和5年4月の農地法改正で取得条件の下限面積要件が撤廃されたものの、小規模農地や新規就農者には依然ハードルが残ります。
農業従事者に売却する
農地を売却する際、通常は許可を受けた農業従事者(個人または農業法人)に譲渡します。農地法により非農家への直接売却は原則禁止されているため、近隣の農家や知り合いなど候補を探しましょう。売却価格の相場は周辺の農地取引事例などを参考にすると良いでしょう。
売却の手続きと許可申請
売却先が決まったら、農地法第3条の許可申請を行います。農業委員会に所定の申請書類を提出し、現地調査を受けて許可が下りれば売買契約が成立します。許可取得には通常数ヶ月程度かかるうえ、申請手数料や書類手続きのコストも発生するので、余裕を持って準備しましょう。
仲介業者を活用するメリット
地元の不動産会社や農地買取専門業者に相談する方法もあります。専門業者は農地取引のノウハウを持っているため、買い手探しや手続き代行で時間と手間を大幅に削減できます。ただし、仲介手数料や買取価格には注意が必要です。(買取の場合、提示価格が相場より低めになることがあります。)
農地転用の許可を得れば転用後の土地を売却できますが、許可手続きには時間と費用がかかる点も理解しておきましょう。
農地を転用して価値を高める
農地を宅地や駐車場、工業用地などに転用できれば、非農地として売却先の幅が広がり、売却価格も上がります。しかし転用には農地法の許可が必要で、申請には時間とコストがかかります。農地の転用が認められる条件は厳しく、市街化区域や接道状況などの要件を満たす必要があるため、よく調査してから進めましょう。
農地転用の要件
農地転用には、まず市区町村や都道府県が定める要件に該当する必要があります。一般に市街化区域や緩衝地区では緩和される場合が多く、利用度の高い青地農用地区域内では制限が強くなります。また、転用後の利用計画が明確であることや地域への悪影響がないことなども審査項目です。転用許可が下りる可能性を事前に確認しましょう。
手続きの流れ
転用許可を得るには、農業委員会へ転用計画図面や申請書類を提出します。この際、申請費用が現地に応じて発生し、現地調査も実施されます。許可がおりるまでには一般に数ヶ月以上を要するため、専門家に相談して計画全体をサポートしてもらうことをお勧めします。許可後は土地の地目変更登記を行い、都市計画法の手続きを経て売却可能になります。
転用のメリット・デメリット
転用後は一般宅地や商業地同様に売却できるため、用途変更前よりも高い価格による売却が期待できます。一方で、許可が得られないリスクや、開発費用・税負担が増えるデメリットもあります。転用が難しい場合は、最小限の整地で売却額を上げたり、制度を活用して損失を抑える工夫も必要です。
農地を賃貸利用して負担を軽減する
売却や転用が難しい場合、農地を農家に貸し出して賃料収入を得る方法も検討できます。農地を貸せば固定資産税の軽減措置が受けられ、管理責任を委ねられるメリットがあります。借り手が見つかったら賃貸契約を結び、借地権設定登記を行います。契約の期間や賃料は事前に明確に取り決め、耕作放棄地バンクなど公的制度の利用も検討しましょう。
相続土地国庫帰属制度で農地を手放す
相続した農地であれば、2023年4月施行の「相続土地国庫帰属制度」を利用できます。この制度を使うと、相続した不要な土地(更地や境界が明確な農地など)を国に引き取ってもらえます。農地も対象ですが、一定の要件(抵当権がなく、建物のない土地など)を満たす必要があります。申請には書類準備や審査、さらに管理費用や手数料がかかる点に留意してください。
制度の概要
- 対象:相続または遺贈により取得した土地で、抵当権や訴訟等の制約がないもの
- 要件:建物や工作物がない、更地であることが原則
- 申請期限:相続開始から3年以内(要手続きで延長可能)
- 費用:評価額の0.2%程度(不動産取得税相当)および土地評価額の一定割合×最長10年分の管理費を前納
メリット・注意点
相続土地国庫帰属制度を利用すれば不要な農地を国に引き取ってもらえ、現金化せずに負担を解消できます。
ただし申請には多額の審査手数料(評価額の0.2%程度)と、10年分の管理費用を前納する必要があり、コスト面で負担が大きい点に注意が必要です。相続放棄と異なり他の財産は保持できますが、条件や手続きは複雑です。詳しくは専門家に確認しましょう。
農地中間管理機構(農地バンク)を活用する
農地を貸したい人と借りたい人をつなぐ「農地中間管理機構(農地バンク)」を利用する方法もあります。自治体や農業委員会が運営し、休耕地を集約して効率的に活用する仕組みです。登録すれば耕作希望者に農地の情報が届けられ、借り手が見つかれば所有者は安定した賃料収入を得られます。なお賃貸契約期間は原則10年以上となり、その間は農地が返還されない点に注意しましょう。
活用のメリット・注意点
農地バンクを利用すると、自ら借り手を探さなくても貸し先が見つかりやすいメリットがあります。所有者は固定資産税の軽減措置や賃料収入が期待できます。ただし、地域によって機能が行き渡っていない場合があるため、事前に窓口で仕組みを確認するとよいでしょう。契約期間中は原則として農地が返還されないことも理解しておきましょう。
専門業者やマッチングサイトを活用する
農地をできるだけ簡単に処分したい場合は、専門業者やマッチングサイトの活用が頼りになります。不動産会社や農地買取業者に相談すれば、許可申請や契約手続きのサポートを受けられます。また、農地専用のマッチングサイトに登録すれば、多くの買い手候補に情報が届きます。
買取業者の利用
農地買取専門業者なら、転用せずそのまま農地として買い取ってくれる場合があります。直接買取では手続きが最も簡単で早期に現金化できますが、提示される価格が市場相場より低めになるケースがある点には注意が必要です。契約前に買取価格の根拠や仲介手数料、その他の費用負担をよく確認してください。
マッチングサイトで買い手を探す
農地専門のマッチングサイトに情報を掲載すると、農業従事者や土地活用企業から問い合わせが受けられます。掲載自体は無料でも、契約が決まった後は自分で許可申請や名義変更を行う必要があります。買い手との条件交渉や契約書の取り交わしには慎重になりましょう。
その他の方法:寄付・相続放棄など
上記以外の方法として、相続放棄や農地の贈与・寄付も選択肢となります。相続した農地が不要であれば相続放棄で受け取らない方法もありますが、この場合は他の遺産もすべて放棄する必要があります。親族や農業法人への土地贈与であれば、贈与税の非課税枠を利用できる場合があります。
相続放棄で農地を放棄する
相続で農地を取得したが、放棄して管理責任から逃れたいときは相続放棄という手段があります。ただし相続放棄をすると、他の預貯金や不動産なども一切相続できなくなるので注意が必要です。農地だけを選んで放棄することはできない点も覚えておきましょう。
親族や法人への贈与・譲渡
農地を子や親に贈与することも検討できます。親族への贈与は、贈与税の非課税枠を利用できることもあります。農業法人に譲渡する場合は適用税制が異なりますが、いずれの場合も農地法の許可手続きが必要です。
公共事業への提供
道路整備や公共施設用地として農地を提供することも可能です。行政が計画するインフラ事業や公園整備などで農地が必要とされれば、自治体が買い上げてくれることもあります。ただし時期や場所が合わないと実現しないため、見込みに過度な期待は禁物です。
まとめ
以上のように、農地を手放す方法にはさまざまな選択肢があります。
各方法にはメリットと注意点があるため、自分の農地の状況や目的をよく考えて適切な手段を選びましょう。
下の表には各処分方法の特徴をまとめましたので、比較検討の参考にしてください。
| 方法 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 農業従事者へ売却 | 売却手続きが比較的簡単で確実に所有権を移転できる | 買い手が農業従事者に限定されるため買い手探しが難しく価格も低くなる傾向 |
| 転用して売却 | 宅地などに転用すれば売却先が広がり、売却価格の上昇も期待できる | 転用許可取得に時間とコストがかかり、条件を満たせない場合は実施できない |
| 賃貸借(貸付) | 税負担が軽減され、定期的な賃料収入が得られる | 借り手との契約には長期間拘束されることが多く、収入は限定的になる |
| 農地バンク | 農地の貸し手・借り手をマッチングしてくれるので借り手を探しやすい | 利用には条件があり、契約期間中は原則農地を返還できない |
| 相続土地国庫帰属制度 | 不要な農地を国に引き取ってもらい、現金化せずに負担を解消できる | 申請費用や管理費用が高額で時間もかかり、要件を満たさないと利用できない |
| 専門業者・買取サイト | 手続きが簡単でスピード買取が可能、手間を大幅に省ける | 買い取り価格が市場価格より低くなるケースが多い、仲介手数料がかかる場合も |
| 寄付・相続放棄 | 親族・企業への寄付で身内で処理できる、相続放棄で農地を受け取らない方法がとれる | 贈与税・譲渡税の課税対象になる場合がある、相続放棄は他の遺産も全て放棄する必要がある |
農地を手放す際は、地元の農業委員会や司法書士・土地家屋調査士といった専門家に相談しながら進めましょう。
適切な方法を選べば、トラブルを避けてスムーズな処分が可能になります。今回紹介した方法を活用し、自分に合った方法で農地の悩みを解消してください。