相続によってマンションを取得したけれど、売却手続きの方法や注意点がわからず不安を感じていませんか。この記事では、初心者でもわかるように相続マンションの売却に必要な全手順を丁寧に解説します。遺産分割や相続登記の準備から、不動産会社による査定、媒介契約、売却活動、売買契約、決済、さらには税金の計算方法まで、順を追って説明します。マンション売却にかかる諸費用や税金の負担を抑えるポイントも紹介。
この記事を参考にすれば、相続マンションをスムーズに売却できるヒントがしっかり掴めます。
目次
相続したマンションを売る手順と注意点
相続したマンションを売却するには、まず相続人間で遺産分割協議を行って誰がマンションを相続するかを決める必要があります。そのうえで、マンションの所有者名義を被相続人から相続人に変更する「相続登記」を行います。
相続登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼して売却価格の目安をつかみ、媒介契約の締結後に売却活動を進めます。最終的には買主と売買契約を締結し、決済・引き渡しを行って取引完了です。
各ステップで必要な手続きと注意点を確認しながら、計画的に進めましょう。
遺産分割協議で相続人・分割方法を決める
被相続人が遺言を残していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。マンションを売却する場合、現金に換えて分割する「換価分割」か、特定の相続人がマンションを取得する代わりに代償金を支払う方法など、相続人全員の同意が必要です。協議で合意した内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名捺印します。意見が食い違うと手続きが停滞するため、早めに話し合っておくことが重要です。
相続登記(名義変更)の手続き
遺産分割協議でマンションの相続が決まったら、法務局で相続登記を行います。相続登記は2024年4月から義務化されており、未登記の場合は罰則対象となる場合があります。必要書類として、被相続人の戸籍謄本・住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本・住民票、遺産分割協議書、固定資産評価証明書などを準備します。手続きは司法書士に依頼するのが一般的ですが、書類が整えば個人でも申請可能です。売却活動を始める前に必ず済ませておきましょう。
不動産査定と会社選び
相続登記が完了したら、不動産会社にマンションの査定を依頼します。一括査定サイトを利用して複数社に査定を依頼し、査定結果を比較しましょう。査定方法には物件情報のみで大まかな価格を出す「机上査定」と、現地を見て詳細に査定する「訪問査定」があります。初めは机上査定で相場感をつかみ、次に訪問査定で精度の高い価格を確認するとよいでしょう。
査定額だけでなく、担当者の対応や仲介手数料率、会社の実績も参考にして信頼できる不動産会社を選んでください。自分でも同エリアの成約事例を調べて相場感を把握しておくと、交渉の際に強みになります。
- 机上査定:物件概要をもとに概算価格を提示
- 訪問査定:現地確認後に詳細な査定額を算出
- 仲介手数料:通常、売却価格の3%+6万円(税別)まで
媒介契約と売却活動開始
査定内容に納得できる不動産会社が見つかったら、不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、契約できる会社数や報告頻度が異なります。契約後は不動産会社がポータルサイト掲載や物件チラシ作成、内覧会の案内などの売却活動を始めます。売却価格を決める際は周辺の成約事例を参考にし、買い手がつきやすい現実的な価格設定を心がけましょう。
物件の内覧では、室内の採光や設備、眺望等を詳しく案内してマンションの魅力を伝えます。清掃や補修が必要な箇所があれば事前に整えておくと、印象が良く査定額アップにつながります。
- 一般媒介契約:複数社と契約可能。売主自身で買主を探してもよい
- 専任媒介契約:1社と契約し、2週間に1回以上の活動報告が義務付け
- 専属専任媒介契約:1社と契約し、1週間に1回以上の報告義務。売主自身の直接取引禁止
売買契約の締結と物件引渡し
買主が見つかったら、双方で売買契約書を作成し署名捺印します。契約書には売買価格、手付金額、支払期日、引渡日、違約時の措置などを明記します。通常、契約時に買主から売買代金の10%程度の手付金が支払われます。契約後は買主の住宅ローン審査に進みます。問題なくローンが承認されたら、決済日に残金の受け取りと所有権移転登記、抵当権抹消手続きを行います。同時にマンションの鍵や管理規約、重要事項説明書など必要書類を買主に引き渡し、売却手続きが完了します。
確定申告の準備
相続マンションの売却で譲渡所得が発生した場合、翌年の確定申告期間(2~3月)に譲渡所得税の申告と納税が必要です。譲渡所得は「売却価格-(取得費+譲渡費用)」で計算します。取得費には被相続人が購入した費用を引き継ぎますが不明な場合は「概算取得費」の制度を使い、売却価格×5%を取得費とみなせます。譲渡費用には仲介手数料やリフォーム費用、登記費用など売却の際にかかった費用を含めます。これらの計算を基に課税額を算出しましょう。
なお、被相続人の所有期間を引き継ぐため、被相続人が長期間所有していたマンションであれば相続直後に売却しても長期譲渡所得(税率約20%)の適用となります。
重要: 被相続人が居住していたマンションを売却する場合、「3,000万円の特別控除」を利用できる可能性があります。条件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円が控除され税負担が大幅に軽減されますので、該当する場合は忘れず確定申告で適用しましょう。
相続マンション売却前の準備と注意点
マンションを売却する前に、契約や税務で必要になる書類・情報を整理しておくことが大切です。また、物件自体の状態をチェックし、きれいに掃除・整備しておくと良い印象を与えられます。さらに、相続人間で共有名義になっている場合は全員の同意が必要です。以下の準備を進めておくことで、売却活動がスムーズに進みます。
必要書類の準備
売却時に必要な書類を事前に揃えておきましょう。主なものは次の通りです。
- 不動産登記簿謄本(登記事項証明書):物件の現所有者を確認する書類
- 被相続人と相続人全員の戸籍謄本・戸籍の附票:相続関係を証明する書類
- 遺産分割協議書:合意内容をまとめた相続人全員の署名押印がある協議書
- 相続人全員の実印・印鑑証明書:契約や登記で必要
- 固定資産税評価証明書または固定資産税納税通知書:譲渡所得の計算などに使用
- 被相続人の住民票の除票(戸籍の附票):住所履歴確認用
これらの書類が揃っていれば、売買契約や登記申請をスムーズに進められます。特に相続登記が済んでいるか確認し、できるだけ早めに名義変更を完了させておきましょう。
マンションの状態チェックと清掃
査定額や内覧時の印象を良くするため、マンションの状態を整えておきます。室内は不要な家具や家財を整理し、ホコリや汚れを落として清掃しましょう。壁の汚れやキズ、設備の不具合があれば、小規模な修繕を検討するだけでも価値が上がります。バルコニーや共用部も清掃し、室内を明るく見せることが大切です。これらの工夫で内覧時の印象が良くなり、高値での売却につながりやすくなります。
相続人の合意と遺言内容の確認
相続マンションを売却するには、共有名義の場合は相続人全員の同意が必要です。遺言書がある場合は内容を確認し、遺言書通りに相続人の持分を決定します。全員の合意が得られないと売却手続きは進められないため、相続人間で意見調整をしっかり行いましょう。場合によっては相続コーディネーターや弁護士に相談するのも有効です。
ローンや借金の確認と相続放棄
被相続人に住宅ローンなどの債務が残っていないか確認します。一般に住宅ローンは団体信用生命保険に加入しており、死亡時に残債がゼロになるケースが多いですが、保険が適用されないローンがある場合は売却代金で支払う必要があります。負債が多いと相続放棄を検討するかもしれません。ただし相続放棄をするとマンションも相続しないことになるため、メリット・デメリットをよく考えて判断してください。
相続したマンション売却の費用と税金
マンション売却には仲介手数料や印紙税、登記費用などの諸費用がかかります。また、譲渡所得が発生すれば税金が課せられます。相続税の納付期限と区別しながら、必要な費用を把握しておきましょう。
仲介手数料などの諸費用
不動産仲介会社への仲介手数料は売買価格の3%+6万円(税別)が上限です。例えば3,000万円で売れた場合、仲介手数料は約96万円となります。そのほかに売買契約書に貼る印紙税(契約金額に応じて数千円〜数万円)、登記費用、司法書士報酬が必要です。決済時には所有権移転登記と抵当権抹消登記を行い、登録免許税(資産価額×0.4%程度)と司法書士費用がかかります。引越し費用やリフォーム費用も売却前に必要な場合があるため、トータルの諸費用を見込みで用意しておきましょう。
- 仲介手数料:売却価格の3%+6万円(税別)
- 印紙税:契約金額に応じて数千円〜数万円
- 登記費用・司法書士報酬:所有権移転・抵当権抹消手続きで必要
- 引越し費用・清掃費用:売却前の準備にかかる費用
譲渡所得税の計算と税率
売却で利益が出た場合、譲渡所得に対して所得税と住民税が課せられます。譲渡所得は「譲渡価格-(取得費+譲渡費用)」で計算します。取得費には被相続人の購入代金(正確な金額が不明な場合は売却価格の5%を概算取得費とみなす)を引き継ぎます。譲渡費用には仲介手数料や売却に伴うリフォーム費用、測量費用などが含まれます。計算した譲渡所得に対し、所有期間が10年超(※被相続人の所有期間を引き継ぐ)の場合、長期譲渡所得の税率(所得税15%、住民税5%の合計20%台)が適用されます。所有期間が10年以下の場合は短期譲渡所得(所得税30%、住民税9%の合計39%台)です。
なお、譲渡所得がマイナス(損失)になった場合でも、他の譲渡所得や給与所得と損益通算できる場合がありますので、確定申告を検討しましょう。
居住用・相続空き家の3,000万円特別控除
被相続人が住んでいたマンションを売却する場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。この特例は譲渡所得の3,000万円までが非課税になる制度で、被相続人が居住していたこと、売却が相続開始から3年後の年末までに行われるなどの要件があります。もしこれらの要件を満たせば税金が大幅に軽減されますので、売却前に居住実態や売却時期を確認してください。
相続税との違いと納付期限
相続税は相続財産の総額に対して課税され、相続開始から10ヶ月以内に申告・納税が必要です。基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると対象となります。一方、譲渡所得税は売却益に対して課税され、譲渡した年の翌年2~3月に確定申告で納付します。相続税の申告要否にかかわらず、売却して利益が出た場合は譲渡所得税の申告を忘れないようにしてください。
相続したマンションを売るメリット・デメリット
相続マンションの売却にはさまざまなメリットとデメリットがあります。売却すべきかどうか検討する際は、以下の点を比較してみましょう。
売却のメリット
売却の最大のメリットは資産を現金化できることです。マンションを売却して得た資金は相続人間で公平に分けることができ、使い道も自由になります。また、売却すれば固定資産税や管理費、修繕積立金の支払い義務から解放され、遠方にある空き家を管理する手間や心理的な負担もなくなります。資産を手放してしまえば、不動産価値の将来変動リスクを避けられる点もメリットです。
- マンションを現金化し、相続人間で分配しやすい
- 固定資産税・管理費の支払い義務がなくなる
- 遠方の物件管理の手間や負担から解放される
売却のデメリット
一方、売却には譲渡所得税や仲介手数料などの費用が発生します。売却価格が高額になるほど税金負担も大きくなり、思ったほど手取り額が増えない可能性があります。また、将来マンションの価格が上がった場合にはその利益を得られなくなる点も考慮が必要です。先祖が住んでいた思い出のある家を手放すことへの心理的負担や、相続人間で意見が分かれるリスクもあります。これらを踏まえ、自分たちにとって最適な形で利用するか検討してください。
- 譲渡所得税や仲介手数料など売却コストがかかる
- 将来の価格上昇による利益を逃す可能性がある
- 思い出の詰まった実家を手放す心理的負担
賃貸に出す場合のポイント(相続マンションの活用法)
売却以外の選択肢として、相続マンションを賃貸に出す方法もあります。賃貸にすると定期的な家賃収入が得られ、不動産を手放さず資産価値を残せるメリットがあります。しかし空室リスクや管理コスト、賃借人とのトラブル対応など課題もあります。以下で賃貸運用のメリット・注意点と、売却との違いを比較します。
賃貸に出すメリット
賃貸運用の最大のメリットは長期的に家賃収入が得られることです。マンションを維持しながら収益化できるため、安定的な収入源になります。家賃収入があれば相続税の支払い資金にも充てられ、相続税の「小規模宅地等の特例」の対象になる場合、相続税額の軽減が期待できます。また、将来的に相続人が住む予定があるなら、売却せず所有しておくことで必要になった時にすぐ住める利点もあります。
賃貸運用の注意点
賃貸には空室リスクがついて回ります。長期間空室が続くとローン返済や税金負担だけが残り、収益が見込めなくなります。また、家賃滞納や設備故障などのトラブル対応も必要です。賃貸収入は不動産所得として所得税・住民税の対象となります。賃貸管理を管理会社に委託すると手数料がかかり、退去時の原状回復費用も負担となります。すぐに高額な資金が欲しい場合、賃貸はタイムラグが生じる点も留意が必要です。
- 空室や賃借人トラブルのリスクがある
- 維持管理費・修繕費が継続してかかる
- 賃料収入に対して所得税・住民税が課税される
売却との比較
売却と賃貸の特徴を以下の表にまとめました。売却は一度に大きな資金を確保でき、以降の管理負担がなくなりますが、譲渡所得税や仲介手数料がかかります。一方、賃貸は継続的な収入が得られますが、管理コストと税金が継続します。ご自身の資金需要や将来設計に応じて、どちらが適しているか比較検討しましょう。
| 比較項目 | 売却 | 賃貸 | 
|---|---|---|
| 収入 | 売却代金で一括現金化 | 継続的な家賃収入 | 
| 税金 | 譲渡所得税(長期・短期) | 所得税・住民税(不動産所得) | 
| 維持管理 | 売却後は管理費負担なし | 管理費・修繕費を継続負担 | 
| メリット | 即時にまとまった資金を得られる | 不動産を手元に残せる | 
| デメリット | 将来の値上がり利益を逃す | 空室やトラブルのリスク | 
まとめ
相続したマンションを売却するには、遺産分割協議で相続人を決め、相続登記を済ませるところから始めます。次に不動産会社での査定依頼と媒介契約を経て売却活動を進め、買主との売買契約、決済、引渡しへと手続きをすすめます。売却に伴う仲介手数料や税金の負担はありますが、売却益を現金化すれば相続人全員が公平に分配できるメリットがあります。
一方、安定した賃料収入を重視する場合は賃貸運用も検討できます。売却・賃貸それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身の資金計画や将来のライフプランに合わせて最適な方法を選びましょう。万が一手続きに不安があれば、不動産会社や税理士にアドバイスを求めて安全に進めてください。