近年、日本に在住する外国人(外国籍の居住者)が増加し、不動産市場でも注目されています。
外国人バイヤーを相手にした不動産売却には、新たなメリット(需要の拡大など)がありますが、その一方で言語や商習慣、手続き面での注意点も伴います。
本記事では、日本に住む外国人への不動産売却で押さえておくべき基本的なポイントや注意点を解説します。
目次
外国人バイヤーへの不動産売却の基本ポイント
国内在住外国人バイヤーの増加と特徴
近年、日本に居住する外国人の数は増え続けており、2023年時点では約320万人を超えたという法務省の統計があります。
外国人バイヤーの多くは、大都市圏のマンションや地方のリゾート地にある別荘に関心を寄せています。
例えば、中国・香港・シンガポールなどアジア圏の投資家だけでなく、欧米出身の資産家も日本不動産への投資を検討しています。
外国人バイヤーの購入動機と注目ポイント
外国人投資家が日本の不動産を選ぶ背景には、日本の政治的安定や治安の良さ、比較的割安な価格、土地取得規制の少なさなどがあります。
近年の円安も追い風となり、多くの外国人は「今が買い時」と考えています。
特に子育て世帯の場合、インターナショナルスクールの近さなど教育環境も重要視されます。こうしたポイントを物件説明に盛り込むことで、外国人バイヤーにとっての魅力を高めることができます。
日本人売主が得られるメリット
売り主(日本人)にとっては、これまでにない新たな買い手層へのアクセスが可能になるという大きなメリットがあります。
一方で、外国人買主とは文化や商習慣が異なるため、通常の取引とは異なる配慮が必要です。
以下では、外国人バイヤーを相手にする際に知っておきたい主な注意点を詳しく説明します。
外国人購入者に必要な書類と手続きの留意点
本人確認と在留資格のチェック
外国人バイヤーの本人確認には、通常パスポートと在留カード(または特別永住者証明書)が使用されます。
在留資格や在留期間によって、住宅ローンの可否や購入条件に影響が出ることがあります。商談の初期段階で在留カードを確認し、ビザの種類や有効期限を把握しておきましょう。
特に、永住者でない場合は住宅ローン審査が厳しくなる可能性があるため、資金計画を早めに固めることが重要です。
署名・押印・印鑑証明の取り扱い
外国籍の購入者は日本の印鑑証明書を取得できないため、契約書の署名・押印方法に工夫が必要です。
一般的にはパスポートに署名をしてもらい、これが実印・押印の代替として扱われます。
行政手続き上、契約書と同じ署名内容を確認される場合もありますので、署名者の氏名が明確にわかるように契約書を準備してください。
項目 | 日本人購入者 | 外国人購入者 |
---|---|---|
本人確認書類 | 住民票・運転免許証など | パスポート・在留カードなど |
印鑑証明 | 発行可能(必要) | 取得不可(署名で代替) |
住宅ローン | 基本的に利用可能 | 永住者でないと難しい/日本人保証人必要 |
支払い通貨 | 日本円(国内送金) | 日本円推奨(海外送金は為替・手数料に注意) |
上表のように、本人確認書類やローン条件、支払い方法などで、日本人購入者と外国人購入者では違いがあります。
売却時はこれらの違いを意識し、外国人買主にわかりやすく説明することが大切です。
支払いと契約条件の調整
支払い通貨と為替リスク
外国人バイヤーが支払いに海外送金を利用する場合、銀行間の手続きの都合で入金確認までに2~3営業日かかることがあります。
為替レートは日々変動するため、日本円に換算した金額が契約時と実際の受取時で異なるリスクがあります。
これらのリスクは契約前に買主と共有し、必要に応じて契約書に責任範囲を明記しておくと安心です。
契約条件と期日の明確化
日本人同士の取引では当たり前とされている手付金や仲介手数料の支払い時期、契約解除条件なども、外国人バイヤーには明示しておきましょう。
期限に対する感覚は文化によって違いがあるため、契約書には支払期日や違約金の取り決めを細かく記載してください。
外国人バイヤーは契約手続きを期限ぎりぎりまで引き延ばすこともあるため、余裕を持ったスケジューリングと明確な契約条項の設定が重要です。
住宅ローンと資金計画の注意点
外国人バイヤーは日本人に比べて住宅ローン審査が厳しくなる可能性があります。
多くの金融機関では、外国人に融資する際、永住者または日本人の保証人を求めるケースが一般的です。在留資格が一定期間に達していない場合や信用情報が不足していると判断されると、審査を通過できないことがあります。
そのため、契約前に買主が自己資金での購入なのかローン利用なのかを確認し、資金計画についても早めに把握しておくことが大切です。
住宅ローン審査の条件
ローン利用を希望する外国人バイヤーには、永住者か日本人配偶者の有無を確認しましょう。
これらがない場合、融資承認は難しいことが多いです。
外国人富裕層向けの専用ローン商品もありますが、一般的には多めの自己資金を要するケースが多いと考えてください。
自己資金の準備と確認
外国人バイヤーが現金で購入を進める場合、海外送金の手続き日程が重要です。
海外からの送金には時間がかかるため、余裕を持った資金移動の計画が必要です。
また、手付金や仲介手数料の支払い時期も事前に調整し、必要な金額を確保してもらうよう協力しましょう。
コミュニケーションと文化的配慮
外国人買主との円滑な取引には、言語対応と文化への配慮が必要です。
重要事項説明書や売買契約書は法律上、日本語で作成することが義務づけられていますが、買主の理解を助けるために英語や中国語の資料を併用するのは有効です。
国土交通省のガイドラインでも、契約書は正式には日本語ですが、買主の理解を深める補助資料として英語や中国語の対訳を用意することが推奨されています。
言語サポートと多言語翻訳資料
不動産広告や資料は英語や中国語など複数言語で用意し、必要に応じて通訳ツールや通訳者を利用するとよいでしょう。
ただし、あくまで日本語版が正式な契約書類であることを明記し、外国語の資料は買主の理解を補助する目的で使用します。
買主側が通訳者を用意する場合が一般的ですが、売主側でも簡単な英会話や翻訳アプリなどで対応できると安心感が高まります。
価格交渉と文化的配慮
外国人バイヤーは初期提示価格を交渉の出発点と考えるケースが多いので、価格設定に余裕を持っておくとよいでしょう。
また、日本人同士に比べ、契約締結が期限ギリギリになることがあります。買主が契約締結まで時間をかける傾向があることを念頭に、契約書には支払い期日や違約金の条項を明確に記載しておきましょう。
文化や慣習の違いによる行動のズレを防ぐため、丁寧な説明とコミュニケーションを心がけることが重要です。
外国人バイヤーにアピールする販売戦略
外国人購入者を取り込むためには、多言語対応の広告・宣伝活動が効果的です。
英語・中国語など外国語で物件情報を発信したり、外国人向け不動産サイトやSNSで宣伝することで、海外からの関心を高められます。
また、物件見学時には英語のパンフレットを用意し、必要に応じて通訳を同席させるなど、安心感を提供する工夫をしましょう。
- 多言語対応のウェブ広告やチラシ配布
- インターナショナルスクール近隣・外国人コミュニティ情報の提供
- 外国人対応に強い不動産仲介会社の活用
多言語対応の広告・PR
外国人バイヤーにリーチするため、物件情報は英語や中国語など主要な外国語でも掲載しましょう。
言語の壁を取り払うことで、物件の魅力をより多くの人に正確に伝えることができます。
特に英語圏や中国語圏の富裕層をターゲットにする際には、英語・中国語での広告が欠かせません。SNS広告(FacebookやInstagramなど)を活用し、海外からのアクセスを増やすのも効果的です。
物件周辺情報の充実
外国人バイヤーは治安や生活環境、教育機関などを重視します。
物件の周辺にインターナショナルスクールや外国人向け病院、商業施設がある場合は、その情報を積極的にアピールしましょう。
特にインターナショナルスクールや日本人学校が近い地域は外国人家族に人気があります。こうした付加価値情報を物件説明に盛り込むことで、魅力がさらに高まります。
専門エージェントの利用
外国人購入に強い不動産会社や仲介業者を利用するのも一つの方法です。
こうした専門業者は外国人向けのネットワークや豊富な取引実績を持ち、言語や契約手続きのサポートが得意です。
売主が不慣れな場合や複雑な案件では、経験豊富な専門家に相談して進めると安心です。
まとめ
日本に住む外国人への不動産売却は、基本的には通常の売買手続きと同じですが、本人確認や書類の取り扱い、資金面で異なる点があります。
具体的には、外国人買主はパスポートや在留カードで本人確認を行い、印鑑証明の代わりに署名を用いること、住宅ローンや支払い通貨での条件が日本人とは異なること、契約時には多言語での説明や文化的配慮が必要であることなどです。
これらのポイントをあらかじめ把握し、必要な書類や契約内容を整えることで、外国人バイヤーとの取引もスムーズに進みます。
今後増加が予想される外国人バイヤーの需要に対応できるよう、準備と配慮をもって売却に臨みましょう。