耕作放棄地を放置すると固定資産税の負担増が問題となっています。2016年の税制改正で、農地と認められない耕作放棄地には通常の約1.8倍の税率が適用される仕組みが導入されました。
また、相続税評価も増加する場合があります。固定資産税は全国共通のルールで賦課されるため、この制度は全国的に適用されます。2025年現在もこの税制は続いており、耕作放棄地への対応が求められています。
本記事では、耕作放棄地にかかる税金の仕組みや負担増の理由、放置のリスク・罰則、そして具体的な対策までわかりやすく解説します。
目次
全国での共通ルール:耕作放棄地にかかる税金
日本では、土地にかかる主な税金として固定資産税があります。固定資産税は全国共通の税率(通常1.4%)で計算され、農地も対象となります。ただし、農地の場合は法律で評価減の特例が定められており、農地の評価額に0.55を乗じることで税負担を抑えています。
この評価減は、農地を活用している場合に限られます。耕作放棄地は通常の土地と見なされ、評価減が外れて高い課税が行われます。
つまり、耕作放棄地は一般農地に比べて税率の高い評価で課税されることになるのです。
農地にかかる主な税金
農地を所有している限り、土地に対する固定資産税の納税義務があります。農地が市街化区域内にある場合は都市計画税(最大0.3%)も加わります。
耕作放棄地も土地扱いのまま課税対象となり、所有者は税を支払い続ける必要があります。
耕作放棄地の定義と対象
農林水産省の農林業センサスでは、耕作放棄地を以前耕作していたが1年以上作付けがなく、今後も作付けの意思がない農地と定義しています。こうした土地は優遇措置が外れ、通常の土地と同様に税が課されます。
実際には市町村がこれを耕作放棄地(遊休農地)として指定して課税対象を判断します。
固定資産税で見る耕作放棄地の増税
次に、固定資産税の視点で耕作放棄地の税負担を見ていきます。2016年の税制改正で課税方式が変更され、耕作放棄地の固定資産税額が増加する仕組みになっています。まずは改正の概要を解説し、その後に増税例と対象条件を説明します。
平成28年の税制改正で税負担が変化
2016年の税制改正で、耕作放棄地に対する固定資産税の計算方法が変わりました。それまでは農地に0.55を乗じて税額を算出していましたが、改正後は耕作放棄地に0.55を乗じません。
この結果、耕作放棄地の税負担は約1.8倍に増えました。
増税の仕組みと具体例
例えば評価額100万円の土地では、通常農地だと100万円×1.4%×0.55=約7,700円の税額です。一方、同じ土地が耕作放棄地になると100万円×1.4%=14,000円になります。
| 区分 | 課税方法 | 税率 |
|---|---|---|
| 通常の農地 | 評価額×1.4%×0.55 | 約0.77% |
| 耕作放棄地 | 評価額×1.4% | 約1.4%(約1.8倍) |
増税対象となる農地の条件
すべての放棄地が増税されるわけではありません。対象になるのは、農業振興地域などで市町村の農業委員会と農地中間管理機構の協議により休耕地と指定された土地だけです。
指定を受けると課税方式が変わり負担が増えますが、指定外の放棄地や生産緑地などは従来の評価が適用される場合があります。
相続・贈与と耕作放棄地の税金対策
続いて、相続や贈与に伴う税金と耕作放棄地について解説します。相続時の評価方法や優遇制度、相続放棄・売却のポイントを説明します。
相続税評価と農地特例
耕作可能な状態であれば農地扱いとなり、農地特例による評価減が適用されます。しかし荒廃した土地は雑種地評価となり、評価額は大きく膨らみます。
実際、農地で200万円だったものが宅地計算で700万円以上になるケースもあり、相続税負担が大幅に増えます。
相続税・贈与税の優遇制度
農地を継続利用する条件で相続・贈与すると、相続税・贈与税の納税が猶予される制度があります。農地売却時には譲渡所得税の特別控除も利用できます。
ただし、耕作放棄地ではこれらの特例要件を満たさない可能性があります。
相続放棄や土地売却のポイント
相続放棄は全財産が対象であり、農地だけを単独で放棄できません。全員が放棄すると国庫に帰属しますが、その間管理義務は相続人に残ります。
耕作放棄地を手放すには農地法の制約があり、農地バンクの活用や転用許可申請など適切な手続きを行う必要があります。
耕作放棄地を放置したときのリスクと罰則
耕作放棄地を放置すると、税負担以外にも大きなリスクがあります。草刈りや廃棄物撤去などの管理が必要になること、条例違反の可能性、そして税金以外の費用負担について解説します。
管理コストの増加と周辺への影響
耕作放棄地は放置されると草刈りや害虫駆除などの管理負担が増えます。管理を怠ると雑草が繁茂し、害虫や野生動物の被害が拡大する恐れがあります。
不法投棄の原因にもなり、景観悪化や再生コストの増加を招きます。これらの問題はすべて所有者の負担です。
行政指導や罰則の可能性
耕作放棄地自体に罰則規定はありませんが、管理を放棄した結果として条例違反になることがあります。
たとえば、草刈りを怠って道路にはみ出した雑草が問題化すると、除草命令や過料を科されることがあります。
また、無断転用や不法投棄は法律違反となり、罰金や刑事罰の対象になります。
固定資産税以外の費用負担
耕作放棄地を放置すると、税金以外にも様々な費用がかかります。たとえば、不法投棄された廃棄物の撤去費用や雑草・害獣対策の費用、再生のための整備費用などです。
また、管理放棄で資産価値が下がり、売却時に不利になる場合もあります。
耕作放棄地の再生と税金対策
最後に、耕作放棄地を再生・活用して税負担を軽減する方法を紹介します。農地バンクの活用や再耕作による負担軽減、補助制度の利用、売却・転用時の注意点などを説明します。
農地バンク・中間管理機構の活用
市町村の農地バンクに耕作放棄地を登録すると、農業経営者とのマッチングが可能になります。特に10年以上の賃貸借契約を結ぶと、固定資産税の課税標準が一定期間半減される特例があります。
この制度を使えば、税負担を抑えつつ土地を有効に活用できます。
貸付や再耕作による負担軽減
耕作放棄地を農家に貸し出したり、自ら再び作付けすることでも負担軽減が図れます。近隣農家に土地を貸すと、その土地は実際に利用されていると判断され、通常の農地課税が適用されます。
また、自ら耕作再開すれば評価減が復活し、固定資産税を大幅に抑えられます。
補助金制度の利用
国や自治体は耕作放棄地対策として補助金制度を用意しています。例えば、耕作放棄地の再生作業費用を補助する交付金や、長期貸付による税優遇措置、地方自治体の支援金などです。これらを活用すれば、再生や税負担軽減に役立ちます。
売却や土地転用の注意点
耕作放棄地を売却・転用するには農地法の許可が必要です。農地を農地以外の用途で開発するには都道府県知事の許可が必要で、許可なく行うと違法になります。
農地として売る場合は農業委員会への届け出も必要です。土地活用や売却を考える際は、事前に専門家に相談して手続きを進めましょう。
まとめ
本記事では、耕作放棄地の税金について解説しました。耕作放棄地は条件を満たすと固定資産税の評価減がなくなり、通常農地の約1.8倍の税額になります。
相続税評価も高くなり得るため、放置には大きなリスクがあります。
これらの負担を防ぐには、早めに土地を再活用することが重要です。
具体的には、再耕作や農地バンクへの貸し出し、補助金制度の活用などで税負担を抑えられます。上手に対策を講じて、所有する農地を有効に活用しましょう。