家は夫婦にとって重要な財産ですが、離婚を考えたとき「家が売れたら離婚」とまで考えるケースもあります。売却した資金をどのように分配し、税金や残債をどう処理するかなど、離婚後の財産分与には注意すべき点が多くあります。
本記事では2025年の最新情報を踏まえ、家を売却した後の離婚と財産分与について、基本から具体的事例までわかりやすく解説します。
目次
家が売れたら離婚できる?離婚前後の選択肢と財産分与の注意点
家を売却してから離婚する場合と、先に離婚してから家を譲る場合では制度上の扱いが変わります。
売却して得たお金は夫婦共有財産として分け合う「財産分与」として扱われる一方、先に離婚して家を譲ると贈与とみなされて贈与税の課税対象になる可能性があります。
ここでは「家が売れる前後で何がどう変わるか」を整理します。
家の売却と離婚の順序:財産分与と贈与の違い
家を売却してから離婚すれば、売却代金は共有財産となり財産分与として公平に分割できます。たとえば売却代金を半々に分ける形が基本ですが、寄与度や婚姻期間を考慮して割合を調整することも可能です。
一方、先に離婚して家を一方に譲ると、譲る側は家の価値相当分を無償で相手に渡すことになり、税法上は贈与と判断される恐れがあります。贈与税が高額になる可能性があるため、この点に十分注意しましょう。
先に売却→離婚するメリット・注意点
離婚前に家を売却すると、現金化されたお金を直接分配できる点が大きなメリットです。現金であれば夫婦2人で公平に分与しやすく、新生活資金やローン返済に振り分ければ負担軽減にも役立ちます。
ただし、デメリットもあります。まず売却完了までは離婚手続きが延期されるため、感情的・経済的な負担が延びるリスクがあります。
また、売却活動が長期化すると精神的なストレスになるほか、市場価格の下落や買い手不在などで希望額で売れないリスクにも備えなければなりません。
先に離婚→売却するメリット・注意点
逆に、先に離婚手続きを終えてから家を売却する場合は、手続き自体が早く完結しやすいメリットがあります。名義人が一人であれば、その人だけで売却を進められます。この場合、売却益を名義人が独占しやすい反面、共有名義だと全員の同意が必要になるため注意が必要です。
また、離婚後は連絡が取りづらくなりがちなので、売却協力が得られなくなるリスクがあります。さらに、財産分与請求の時効(離婚後5年以内)を意識しておかないと、期間を過ぎてしまうと請求権が消滅する点も忘れないようにしましょう。
実際に家が売れたら分配はどうなる?
家が売却された後は、売却代金(残債を除いた現金)を夫婦で分配します。一般的には原則2分の1ずつに分けますが、夫婦で話し合って寄与度に応じた調整も可能です。
譲渡益に応じて按分したり、一方が住宅ローンを負担していた分を補填したりと、具体的な分配方法は話し合いで決めます。離婚協議書や公正証書で合意内容を明文化しておくと、後のトラブル防止になります。
離婚時の財産分与の基本:対象財産と分与方法
離婚時の財産分与では、結婚後に夫婦で築いた財産を分け合います。家(マイホーム)だけでなく預貯金や投資資産、車や家財道具も共有財産の対象です。
ただし、結婚前に購入した財産、親から相続・贈与で得た財産は特有財産とされ、分与の対象外となる場合が多い点に注意しましょう。
ここでは対象財産の範囲や、分与手続きの流れを整理します。
財産分与の対象財産
夫婦共有財産には、結婚後に取得したマイホームや土地、貯金、株式などがあります。これらは夫婦どちらからも財産分与を請求できます。
一方で、結婚前に購入した自動車や、親から相続・贈与で得た不動産などは、原則として特有財産にあたり分与の対象外です。
ただし、結婚期間中の生活費や共同資金で特有財産が増えた場合は、その増加分について分与対象になることもあります。
共有財産と特有財産の違い
共有財産とは「婚姻期間中に夫婦の協力で形成された財産」です。具体的には、結婚後に2人の収入や貯金で取得したマイホームや貯蓄が該当します。
特有財産は「婚姻以前から個人が所有していた財産」や「相続・贈与で受け取った財産」です。
例えば結婚前に取得した不動産や婚姻期間中に親から受け継いだ土地は、原則として分与対象になりません。ただし、共有財産と判断される事例もあるため、専門家に相談するのがおすすめです。
共有財産の評価と分与割合
共有財産の分与には財産の現状評価が必要です。マイホームの場合は不動産会社の査定や固定資産税評価額で価値を見積もります。離婚時に売却しないときは、市場価格からローン残債を差し引いた金額が分与対象となることが多いです。
分与割合は原則2分の1ですが、2025年の民法改正では夫婦の寄与度や婚姻期間、生活水準など複数の要素を考慮することが明文化されました。
取り決めがない場合でも、寄与度が書面で示されていなければ2分の1のルールが適用されやすくなっています。
話し合い・協議・調停の進め方
財産分与はまず夫婦間の話し合いで決めます。合意すれば離婚協議書や公正証書に分与方法を記載しておくと安心です。
協議がまとまらない場合は家庭裁判所で財産分与調停に進み、調停でも解決できなければ審判や訴訟になります。
訴訟では不動産登記簿や預貯金通帳の提出などで財産を明らかにしなければなりません。
2025年の法改正により、裁判所が必要と認めれば強制的に財産情報の開示を命じる制度も設けられました。
離婚前に家を売却するメリット・デメリット
離婚前に家を売却してしまうと、現金で分け合えるため分与が明確になるメリットがあります。ローンがある物件は売却代金で完済でき、借金の負担もなくなります。売却して得られた現金を新居や生活費に回せる点も利点です。
一方で注意点もあります。家を手放すまでは離婚手続きが先送りになり、別居生活が長引く不安があります。また、市場の影響で価格が下がったり、買い手が付かず売り急ぐ必要が出たりするリスクもあります。
売却に時間がかかるほど離婚のタイミングが延びる点を覚えておきましょう。
売却して現金化するメリット
家を売却して現金にすれば、物理的に分割できない不動産より分与しやすくなります。現金であれば夫婦で分配割合を自由に決められるため、分与協議がスムーズです。
たとえば売却益1000万円を2分の1ずつに分けるのか、寄与度に応じて調整するのか、明確にルールを決められます。また、売却益を新生活に充てられるため、老後資金や子どもの教育費に回すといった活用もしやすい点がメリットです。
住宅ローンがなくなるメリット
住宅ローンの残債がある場合は、売却代金で完済できるのがメリットです。
残債を差し引く形で清算すれば、名義人だけでなく保証人もローン負担から解放されます。
離婚後にどちらか一方がローン返済を続ける必要がなくなるため、返済リスクが共有者全員から解消されるのは大きな利点です。
分配割合を決めやすいメリット
家を売却すれば分配するお金が明確になるため、割合を決めるのが格段に容易になります。
売却前に不動産会社の査定で価値を把握しておけば、お互い納得のいく分与比率を話し合う材料になります。
たとえば売却益を見積もり「〇〇万円ずつ分けよう」という合意をすると、その後のトラブル防止につながります。
離婚の延長と売れないリスク
一方、離婚前に売却するデメリットとして、売却準備期間中に離婚手続きが延びてしまう点があります。売却交渉や契約まで数か月~1年程度要することも多く、その間の心理的負担や生活費の問題が長引きます。
また、買い手が思う価格で見つからない場合や、売却期間が長期化すると価格交渉で妥協が必要になる可能性もあります。市場が変動して売却タイミングを誤れば、想定より低い額での売却になり兼ねないことも覚えておきましょう。
離婚後に家を売却するメリット・デメリット
離婚後に家を売却するケースでは、精神的に区切りをつけて話し合いができる点がメリットです。離婚が先に成立することで対外的な手続きが一段落してから売却に専念できます。
売却手続き自体は名義人が主導して進めやすい反面、共有名義だった場合は依然全員の同意が必要です。離婚後は連絡が付きにくくなるため、売却協力が得にくいリスクもあります。以下、売却した場合の注意点を見ていきましょう。
売却せず割安で家を譲る場合の注意点
離婚後に家を売却せず、どちらかに「家を譲る」場合には、実質的に譲渡価額相当の贈与とみなされることがあります。
この場合、譲る側は贈与税の課税対象になる恐れがあります。家を売却せずに安易に譲ってしまうと、売却益分与ではなく贈与税を支払う結果になるため、税負担が大幅に増えることを理解しておきましょう。
売却して得たお金をどう分配するか
離婚後に家を売却して得た代金も基本的には財産分与の対象です。売却益は財産分与として扱われるため分与後の現金受領には税金はかかりません。
売却代金からローン完済額を引いた残額を共有財産とみなし、夫婦で協議して分配割合を決めます。
売却前に取り決めていなければ、売却後に協議を行い、公平な分配方法を文書にしておくと安心です。
連絡・協力度の低下リスク
離婚後は元配偶者と連絡を取り合う機会が減るため、売却条件の交渉が難航することがあります。
売却価格やタイミング、金融機関との調整を合意形成するには互いの協力が不可欠です。
こうしたリスクを回避するには、離婚協議書や合意書に売却方針を明文化しておくなど、事前準備をしておくとトラブルを防ぎやすくなります。
住宅ローン残債の負担問題
売却代金で住宅ローンを完済できない場合は、ローン残債が課題になります。売る価格より残債が上回るオーバーローンなら、自己資金で差額を補填するか住宅ローンの借り換え・任意売却を検討する必要があります。
夫婦で残債の負担割合を決めるか、金融機関に相談して支払い猶予や債務整理の検討も考えておきましょう。
売却後の財産分与と税金・住宅ローンの扱い
家を売却して得た代金は現金として分配されます。離婚後の財産分与で得た分与金は非課税扱いとなる一方、売却自体で利益が出れば譲渡所得税の対象となる可能性があります。
住宅ローンが残っている場合、売却代金で完済し抵当権を抹消しておくのが一般的です。以下では、売却後のお金の分配方法と税金・ローン処理のポイントを詳しく見ていきます。
売却代金の分配方法
売却後の現金は共有財産です。売却時点の残債を返済した後の現金を夫婦で分配します。たとえば6000万円の売却代金から残債3000万円を払い、残り3000万円を2人で分けるなどです。
通常は半分ずつにしますが、事前に取り決めがあれば寄与度に応じて割合を変えることも可能です。売却益の受取・分配方法は離婚協議書に明記し、後の証拠を残しておくとトラブルを防げます。
譲渡所得税と財産分与非課税の違い
不動産を売却して利益が出た場合は譲渡所得税がかかりますが、離婚時の財産分与で得たお金には税金がかかりません。売却益自体には税負担が生じる可能性がある点は理解しておきましょう。
ただし、家の代金を離婚前に分け合ってしまうと贈与とみなされ贈与税が課される恐れがあります。売却代金の分与は、離婚手続き後に行う「財産分与」として処理するのが一般的です。
住宅ローンの返済・抹消
売却でローンを返済する際は、代金受領後に金融機関に一括返済の手続きを行います。返済後、金融機関から送られる抵当権抹消書類を使って法務局で担保抹消登記を行いましょう。
不足分があれば共有者間で協議するか、自己資金で埋め合わせる必要があります。ローン残債を夫婦で折半する場合は、その旨を協議書に明記しておくと安全です。
登記名義の変更と抹消手続き
売却後は買主への所有権移転登記を行いますが、離婚前に家を残す場合は誰が名義を引き継ぐかが問題になります。
どちらかに名義を移す場合、所有権移転登記を行い、抵当権抹消登記も同時に進めます。
自身で手続きをするより司法書士に依頼するのが確実です。不動産の名義変更や抹消を忘れず行い、後日のトラブルを防ぎましょう。
家を残す場合の財産分与と住まいの選択肢
家を売却せずにどちらかが住み続ける場合、公平な財産分与をどう行うかがポイントです。一般的には住み続ける人(たとえば子どもの学区を優先して親が残るなど)が家の所有権を持ち、相手に代償金を支払う「代償分与」の方法をとります。
代償金額は家の評価をもとに算出し、双方が納得できる形で調整します。また、家を離れる人は新居探しや賃貸契約が必要になるため、次の住まいの選択肢もしっかり検討しましょう。
どちらかが住み続けるケース
たとえば子どもの進学先の兼ね合いで夫婦のどちらかが家に残り、もう一方が新居を用意する場合があります。残る側が家を取得するときは、相手に家の価値相当の金額を支払う代償分与を行います。
代償金の額は不動産会社の査定価額から住宅ローン残債を引いた額を目安に決めるのが一般的です。この方法なら家を現金化しなくても分与ができますが、代償金を支払う資金計画は事前に明確にしておきましょう。
持ち分の交換・代償分与
共有持分のまま分与する方法もあります。たとえば家の持ち分を相手に譲り、譲り受けた人が代償金を支払う形です。また、持ち分を売却して得た金額を代償金に充てる方法もあります。
代償分与では交換する金額を公正に設定することが重要です。必要に応じて資産査定や税務の専門家の意見を参考にし、持ち分の交換内容を決めましょう。
住み続ける場合のリスクと対策
家に住み続ける側は、住宅ローン返済や維持費の負担が将来も続く点を理解しておきましょう。一方で、離婚後に収入が変動したり健康問題が生じると返済が難しくなるリスクもあります。
この場合は、連帯保証人を外す手続きやローン借り換えで負担を軽減する方法もあります。また、離婚前に生活費などの負担分を明確にして分担協議しておくと、離婚後に揉める可能性を減らせます。
財産分与の請求期限と最新法改正
離婚後の財産分与請求には期限があります。2025年現在、改正民法により請求権の期限は離婚成立から5年以内に延長されています(従来は2年)。
つまり、離婚から5年以内に売却代金の分配など財産分与を申し出なければ権利が消滅します。
一方で、改正により年金分割の期限は変わらず2年のままなので注意が必要です。以下では、改正民法による財産分与の変更点についても解説します。
財産分与請求の期限:2年から5年へ
2020年4月1日以降に成立した離婚には、財産分与の請求期限が離婚後5年以内となります。これまでは2年以内でしたが、改正法により国内外の事情を踏まえ要件が緩和されました。
離婚時に財産分与の話し合いができていなかった場合でも、離婚から5年以内であれば調停や訴訟で請求できます。
ただし、早めに協議を進めないと証拠散逸や相手方の財産移動が生じるリスクがあるため、できるだけ早い対応が望まれます。
改正民法で変わる財産分与の考え方
改正民法では「財産分与するべきかどうか、分与額・方法はどうするか」の判断基準がより詳細に定められました。具体的には、婚姻中の協力や貢献度、婚姻期間、生活水準、収入・資産の違い、支援や介護の状況、年齢・心身の状態など、様々な事情を考慮することが明文化されています。
なお、寄与度が不明確なときは夫婦の協力関係を同等とみなし2分の1を原則と明示されました。離婚に伴う財産分与を取り決める際は、これら改正点を念頭に置いて話し合いましょう。
情報開示義務の強化
最新の法改正では、財産分与手続きでの情報開示義務が強化されました。財産分与調停や訴訟で裁判所が必要と認めれば、預貯金口座や株式などの金融資産の明細、不動産登記簿謄本などを相手方に開示するよう命じることが可能です。
相手が意図的に財産を隠していた場合でも、裁判所を通じて明らかにできるため、早期の開示を促して正当な分与を実現できるようになりました。
まとめ
家を離婚理由に売却する場合、財産分与に関する理解が欠かせません。売却前に夫婦で協議し公平な分配割合を決めておくのが理想ですが、離婚後に売却して分配するケースも少なくありません。
売却代金を財産分与として受け取るときは非課税となりますが、譲渡所得税は別途考慮が必要です。
2025年現在は財産分与請求の期限が離婚後5年に延長されています。家を売却する際は税金やローン、法改正の内容をしっかり確認し、必要に応じて専門家の助言も仰いで進めるようにしましょう。